お客様から「御影石床(バーナー仕上げ)の色味を濃くしようと思い、ワックスを塗布したがムラになってしまった」とのご相談をいただきました。
(下の写真をご覧ください。一部(左下)テスト施工を行ったため黒くなっています)
こちらは、都内のマンションのエントランス床。約30㎡程度の広さですが、数ヶ月前に一部の石が歩行時に浮き沈みをするとのことで、4枚分張り替えを行ったそうです。
ただ、元々何かしらのコーティングが既存の石に塗られていたせいか、周りとの差が出てしまいました。
張り替えを担当した業者によると、とりあえずコーティングを塗ることを思いつき、ワックスを塗布したところ、色味は濃くならず、液だれのシミ跡も発生したことにより、慌てて弊社へご相談が来ました。
前回でも記載した通り、樹脂系ワックス(樹脂系コーティング剤)は上から蓋をしてしまうことになるため、石材に塗って良いことは一つもありません。
石材の呼吸(湿気の放散と吸収)を止めてしまうリスクが高く、その影響で石材内部に湿気が滞留し、少しずつ色調が濃くなってしまうことや、大理石・御影石の場合は湿気により結晶が脆弱化する恐れがあります。
そのため、石の張替えを行って周囲との差が出た場合(周囲がより濃い色の場合)の対処法としては、呼吸を妨げない石材専用の正しいガラスコーティングを選定・施工することが美観の維持と長期的な保護につながります。
【施工方法の解説】
最初に、既存のワックスを剥離する必要があるため、「コーティングリムーバー」を塗布し、ワックスを分解しながら剥離作業を行いました。
コーティングリムーバーはワックスの他、除去が困難なガラスコーティング剤やシリコーン系コーティング剤を強力に分解する剥離剤です。
施工面にモップなどでたっぷり塗布、1時間以上放置します(乾かないように時々再塗布)。その後、よく水洗いを行います。
取れない場合はこれを何度か繰り返すのですが、素材表面にかなり密着しているのか白っぽさがあまり消えず、完全除去にはかなりの時間がかかりそうでした。
そこで、「軟質ブラシ」をハンドポリッシャーに装着し、水を供給しながら物理的な剥離作業を行うことにしました。
軟質ブラシは、軽微な汚れを除去するために使用するブラシです。使用する際は、一度コーティングリムーバーを回収して、水を散布して研磨します。
剥離剤に比べると物理的にこそぎ落とすことが出来るので、時間短縮(体感的に1/3程度)につながります。また、素材へのダメージもほとんどないので安心して作業できます。
通常の繊維質のパッドだと、石が硬いので耐久力が気になりますが、ブラシであればしっかりと追随できて汚れ落ちも早く、高耐久です。
軟質ブラシによる剥離作業後は下の写真の通りですが、テスト施工部分の黒みが残っているとコーティング施工後の色味に影響が出ると思い、最終的には硬質な「ダイヤブラシ」を使用して全剥離をしました。
硬質ブラシは、ブラシ1本1本にダイヤが練り込まれているため、なかなか取れない温浴施設の頑固なエフロや、ガラスコーティング剤などもすっきり除去できます。
若干石に小傷が入る場合があるので、長時間の研磨はお勧めしません。
乾燥させて元々のバーナー仕上げの状態に戻し、最後に石の呼吸を妨げないガラスコーティング剤の「マイクロシーラー セラミックガード」を施工します。
素材に少量を垂らし、フェルトパッド等で薄く塗りのばしていき、そのまま5分程度浸透。その後、拭きムラが出ないようにスエードクロスで乾拭きを行い、2〜3時間乾燥させます。
本磨き仕上げの素材の場合は、しっかりとした膜厚を形成させるため、拭き取りで2層塗りが基本ですが、今回のようなバーナー仕上げの場合、1度塗りでしっかりと含侵して膜厚が出ますので、1層塗りで十分です。
セラミックガードを塗布することでウェットルックになって高級感が増しますし、石材表面にガラス膜が形成されるのでしっかりと傷や汚れから保護することができます。
全ての作業の所要時間は4時間程度ですが、コーティング施工後2時間程度は乾燥が必要であり、その間は歩行できなくなる点をご注意ください。
既存の石に塗られているコーティング剤とは別商品になるため、若干色味の差は出ましたが、遠目から見ると違和感は少なく、お客様に喜んでいただけました。
著者新井田康介(にいだこうすけ) 株式会社タックアンドカンパニーは、国内初の石材メンテナンス会社として1985年に創業。 株式会社タックアンドカンパニー HP |