取引先から「御影石(バーナー仕上げ)の立ち上がり部分の油染みが気になるので除去してほしい」とのご相談をいただきました(下の写真をご覧ください)。
こちらは、都内の商業ビルのエントランスにあるエスカレーター裏にある石壁になります。
理由がはっきりと分かりませんでしたが、エスカレーターの点検後に出てきた可能性があるとのことでした。
おそらく油分を起因とするシミだと判断し、油染み除去作業を行いました。
一般的に、石材のシミの由来は大きく分けて3種類あります。
■表面からのシミ
油分、飲料水、汚水、もらいサビなどが石材の細孔へ入り込んでできたシミ
(※今回のシミはこれが原因と考えられます)
■内部からのシミ
石材内部の成分(主に鉄分)、バクテリア、藻、コケ、カビなどが何らかの要因により石材内部で変色したシミ
■裏面・小口からのシミ
石材を接着するための接着剤、シーリング材、モルタルなど、あるいは湿気や水分などの要因で変色したシミ
石材は、水分を吸い込む性質があり、表面あるいは裏面から反対側へと水分が染み出す性質を持っています。これは、構成される鉱物の塊に「細孔」というミクロサイズの空間を保有しているためです。
石材の分類では、凝灰岩、砂岩の吸水率が非常に高く、また、石灰岩も高い性質を持っています。吸水性・透水性の高い石材ほど染み込みやすく、汚れやすいと言えます。
また、白色の石は黒色の石に比べて吸水性が高い傾向にあり、シミの発生が起こりやすいのです。
【施工方法の解説】
まずはシミ部分をヒートガンで温めながら油染みも除去できるアルカリ性特殊クリーナー「ディープストロング」の原液を計量カップに移し、ハケで塗布して徐々に反応させていきます。
床面の場合は全面に塗布すれば十分ですが、壁面の場合は液だれしますので、ハケを下記の画像のように持ち、横移動させながら上から下に塗布します。細部は横や縦に細かく動かすとより浸透しやすくなります。
シミの除去を行う際に素材を温めることは非常に重要です。やみくもにただ洗剤を塗布しても、表面上のシミに反応するだけで、内部に入り込んだシミへの効果が限定的になります。その分、時間もかかりますので、作業コストも必然的に上がってしまいます。
熱を加えることは、シミ除去の即効性が得られ、工期を短縮する意味でも欠かせません。
ヒートガンを使用するうえでの注意点として、一点集中で当てるのではなく、小刻みに動かしながらシミ部分をゆっくり温めます。
石自体に熱を加えることに関しては問題ないのですが、一箇所に当てすぎると焦げたり部分的に欠けたりする可能性があります。温度としては、300~500度の熱が加えられるものが望ましく、弊社では白光株式会社のヒーティングガンの使用を推奨しています。
素材を温めてディープストロングを塗布、5分程度経過後に再度同じ作業を繰り返す作業を何度か続け、徐々に深部まで洗剤を浸透させます。今回は範囲が広めなので、2名作業で1時間程度同じ作業を繰り返しました。
その後、シミ取り漂白剤の「ステインリムーバー」と機械油シミの除去効果の高いアルカリ性洗剤の「オイルステインリムーバー(マシンオイル用)」を1:1で混合し、同じように素材を温めた後にたっぷり塗布し、下の画像のようにマスカー等で湿布します。
▲ステインリムーバー+オイルステインリムーバー(マシンオイル用)で湿布作業中
こうすることで、洗剤が乾かずに素材に留まり、洗浄効果が長く続きます。より多くの洗剤を塗布する目的で、湿布する前に厚手のキッチンペーパーを壁面に張り付ける方法もおすすめです。
湿布後は2時間程度放置し、漂白洗浄させます。
▲2時間の湿布作業後の状況
湿布作業をし続けることも方法の一つですが、一度湿布を外して再度熱を加え、新たに洗剤を塗布することでより洗浄効果が高まりますので、同じ作業を繰り返し行います。
ヒートガンと洗剤を使用するだけでも十分除去できますが、熱の力がより加わるとより深いシミも除去が可能です。
施工を始めた際はトーチバーナーの使用許可をいただけませんでしたが、より高い効果が得られることをご納得してもらい、終盤で使用許可をいただきました。最後の2時間はトーチバーナーと洗剤を駆使して除去作業を行っています。
施工後の画像を見てお分かりいただけると思いますが、やはりトーチバーナーを使用したほうがより深く洗剤が浸透するので、シミがほぼ分からないレベルまで除去できます。朝9時頃から開始し、17時頃まで作業してここまで消すことができました。
▲ヒートガンと洗剤を使用後の施工画像
▲トーチバーナーと洗剤を使用後の施工画像
今回は表面からのシミでしたので、シミ再発の可能性は極めて低いですが、裏面からのシミの場合、下地の状態等によっては再発の可能性があります。
再発を完全に止めることは難しいのですが、浸透性保護剤をシミの除去後に塗布すると再発防止効果が期待できます。
その場合は、油性の「インナーガードプレミアム」がお勧めです。浸透性保護剤塗布の難易度は高くないのですが、シミの除去は時間が読みにくく少し手間のかかる作業なので、難易度は高めです。ただ、経験を積めば作業のコツをつかめるので、まずは小規模のシミの除去から施工をスタートしてもらえればと思います。
著者新井田康介(にいだこうすけ) 株式会社タックアンドカンパニー HP |