今回の記事では、ブリヂストンがデジタル化を推進して、どのように自社の業務改善や新たなビジネスチャンスの開拓に取り組んでいるかについて解説します。
まず、日本航空との協業を通じて航空会社の整備業務効率化に貢献し、次に、BSNとの連携によるロードサービスの待ち時間最適化に挑戦。
さらには、デジタルプラットフォーム基盤の構築を行い、社内の教育体制を整備してDXを加速させています。
それらの取り組みに対する詳細や、データ分析における具体的な問題解決手法についての説明を通じて、現代のビジネスにおけるデータ分析の重要性とその具体的な活用方法について深く掘り下げていきます。
航空会社の整備業務効率化に貢献
JALとの協業による業務見直し
ブリヂストンは、データ分析を活用して事業改革を進めています。
特に、日本航空(JAL)との協業を通じて、航空業界の整備業務の効率化に取り組んできました。
航空業界では、機体の安全性を確保するために、高度な保守・整備が必要とされます。
そして、その中でも特にタイヤの管理は重要なポイントとなっています。ブリヂストンとJALは、このタイヤ管理の業務を効率化するために、データ分析による新たなアプローチを採用しました。
この協業の一環として、まずブリヂストンとJALは、整備現場の現状を詳しく調査し、課題を洗い出しました。
そして、その中でも特に時間と労力を要していたタイヤの点検と交換作業について、改善の余地があることを見つけ出しました。
これらの課題を解決するために、ブリヂストンとJALは共同で新しいデータ分析ツールの開発に着手しました。
このツールは、タイヤの使用状況や摩耗度を計測し、それを元に最適な交換時期を予測するものです。
タイヤ交換の課題とデータ分析
従来、航空会社では、定期的なタイヤの点検や交換が行われてきましたが、そのタイミングは一定の間隔で設定されていたため、適切な時期に交換が行われていない場合がありました。
その結果、タイヤが過度に摩耗してしまい、早期交換が必要になるケースや、逆にまだ利用可能な状態のタイヤが早く交換されてしまうという無駄が発生していました。
また、予期せぬタイヤトラブルによりフライトが遅延するという事態も発生していました。
そこでブリヂストンとJALは、タイヤの摩耗状況や使用状況をデータとして蓄積し、それを分析することで、最適なタイヤ交換時期を予測する方法を開発しました。
この方法により、タイヤ交換の無駄が削減され、効率的な業務運営が可能となりました。
予測アルゴリズムと交換時期の最適化
具体的には、ブリヂストンとJALは、タイヤの摩耗度を計測するセンサーをタイヤに取り付け、それにより得られるデータを収集しました。
そして、そのデータを元に、AI(人工知能)を活用した予測アルゴリズムを構築しました。
このアルゴリズムにより、タイヤの摩耗度や使用状況から、タイヤの寿命を予測し、最適な交換時期を導き出すことが可能となりました。
この予測アルゴリズムの導入により、タイヤ交換の効率化だけでなく、フライトの安全性確保にも寄与しています。
また、予想外のタイヤトラブルによるフライト遅延の発生を防ぐことも可能となり、航空業界全体のサービス向上に寄与しています。
ブリヂストンとJALのこの取り組みは、データ分析とDXの活用が、業務効率化だけでなく、事業全体の品質向上にも寄与する一例となっています。
ロードサービスの待ち時間をベイズ回帰モデルで最適化
BSNと全国ネットワークの紹介
ブリヂストンは、自動車タイヤの製造だけでなく、タイヤに関連した多岐にわたるサービスを提供しています。その一つがBSN(ブリヂストンサービスネットワーク)です。
BSNは、ブリヂストンの全国ネットワークを活用したロードサービスを提供しており、タイヤ交換から故障車の修理まで、自動車のトラブルに対応しています。ブリヂストンのタイヤを装着している自動車はもちろん、他社のタイヤを使用している自動車に対してもサービスを提供しています。
しかし、全国的に展開するロードサービスには、それぞれの地域や時間帯によって需給バランスが大きく変動するという課題がありました。
特に、自動車の故障が集中する時間帯や、遠隔地におけるサービス提供は、顧客の待ち時間の増加につながっていることです。これらの問題を解決するため、ブリヂストンはデータ分析を活用し、サービスの最適化を試みました。
データ分析による待ち時間の最小化
ブリヂストンは、ロードサービスの効率化と待ち時間の最小化を目指して、大量のデータ分析を行いい、過去のロードサービスの呼び出しデータを基に、自動車の故障が多く発生する時間帯や地域、季節等のパターンを分析しました。
また、サービス提供までの時間、作業に要する時間、移動距離などのデータも収集し、顧客の待ち時間に影響を与える要因を特定することに着手しました。
これらのデータを基に、各地域でのロードサービスの需給バランスを予測し、サービス提供の最適化に取り組むことで、故障が多く発生する時間帯にはスタッフを増やす、遠隔地でのサービス提供には移動時間を考慮に入れる等、さまざまな施策を試行することになりました。
ベイズ回帰モデルの利用と店舗場所の最適化
ブリヂストンはベイズ回帰モデルを用いて、各地域の故障発生率とスタッフ配置の最適化を行いました。ベイズ回帰モデルとは、データの確率的な関係性を用いて、未知のデータを予測する統計的手法です。
ブリヂストンは、これを用いて、各地域での故障発生率を予測し、スタッフを配置しました。
モデルの予測結果を元に、新たな店舗の立地を最適化し、故障発生率が高く、現在の店舗の対応能力が不足している地域に新たな店舗を設置することで、待ち時間を短縮し、サービスの質を向上することになりました。
このようにして、ブリヂストンはデータ分析とベイズ回帰モデルを活用し、顧客の待ち時間を最小化するとともに、サービスの効率化を実現しています。
これらの取り組みにより、BSNは高品質なロードサービスを提供が可能となりました。
データ分析を実現するブリヂストンのデジタルプラットフォーム基盤
タイヤに関するプラットフォームの紹介
ブリヂストンが開発したデジタルプラットフォームは、タイヤに関する膨大なデータを一元管理し、それを基に様々なデータ分析を行うことができる基盤です。
タイヤに組み込まれたセンサーから得られるデータ、製造工程からのデータ、顧客からのフィードバックデータなど、多種多様なデータを統合的に扱うことで、より深いインサイトを得ることが可能となっています。
このプラットフォームは、Azureを主とするクラウドサービス上で動作しており、データの蓄積や分析、ビジュアライゼーションを行うための多様なツールがあります。
社内のデータ分析担当者だけでなく、一般の社員やパートナー企業もデータを容易に利用し、自らの業務やプロジェクトに活かすことができます。
リトレッドタイヤの情報管理と社会的価値
このプラットフォームを活用した一例として、リトレッド(再生)タイヤの情報管理があります。
リトレッドタイヤは、使用済みのタイヤから新たなタイヤを製造する方法で、環境負荷を軽減すると同時にコストを抑えることができます。
しかしながら、リトレッドタイヤの品質や性能を一貫して管理することは容易ではありません。
ブリヂストンのプラットフォームでは、各リトレッドタイヤの製造過程や性能データを一元管理し、それらをもとに品質や性能の評価を行います。
これにより、リトレッドタイヤの安定した品質と高い性能を確保し、環境と経済の両面での価値を提供することが可能です。
モビリティに関するプラットフォームと業務効率化
また、ブリヂストンのデジタルプラットフォームは、モビリティに関する業務の効率化にも寄与しています。
例えば、ロジスティクス業務では、各車両の運行データやタイヤの状態データを一元管理し、運行ルートの最適化やタイヤ交換のタイミングなどをデータベースで予測します。
これにより、不必要な運行や予期せぬ故障を減らすとともに、全体の運行効率を向上させることができます。これらの取り組みは、ブリヂストンの事業を支える基盤となりつつあります。
社内の教育体制を整備し、さらにDXを加速する
データの蓄積・管理とその課題
デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速とともに、ブリヂストンでは様々な種類のデータが日々蓄積されています。
これにはタイヤの製造データやセンサーデータ、顧客のフィードバックや市場の動向など、多種多様な情報が含まれます。
データの活用により、ブリヂストンは新たなビジネスの機会を探ったり、業務の効率化を図ることが可能です。
しかし、その一方で、データの管理や分析能力の不足、データセキュリティの確保など、様々な課題も浮き彫りになりました。
データ分析へのリテラシーと教育対策
データを有効に活用するためには、データ分析へのリテラシーが不可欠です。
しかし、ブリヂストン内部でも、データ分析の知識不足や誤解が見られ、間違ったデータ活用が業務効率の低下やアウトプットの品質低下につながる事例がありました。
これに対して、ブリヂストンは教育対策を打っています。
新入社員に対してデータサイエンスの研修を必須とし、工場で働く従業員も含めた全社員に対してeラーニングの実施を行っています。
これにより、全社員がデータ分析への基本的な理解を持ち、データを正しく活用することができるようになることを目指しています。
データサイエンティストの不足と解決策
データの有効活用には、データ分析のスキルを持つ人材、すなわちデータサイエンティストが不可欠です。しかし、ブリヂストン内外ともにデータサイエンティストの不足が課題となっています。
これに対して、ブリヂストンは教育と人材発掘に力を入れています。データサイエンスを深く学びたい社員に対しては、社内研修だけでなく、大学などで高度な講習を受けられる体制を整備しています。
また、社内人材の育成に加えて外部人材との連携や発掘にも注力しています。これらの取り組みにより、データサイエンティストの不足を解消し、データ活用のさらなる推進を目指しています。
オンラインイベント参加者の質問に答える「Q&A」
タイヤとサーバーの通信経路
オンラインイベントに参加した人々の中には、ブリヂストンの技術に興味がある方も多く、タイヤとサーバーがどのように通信しているのかについて質問が多く上がったそうです。
この時にブリヂストンの回答は、『タイヤとサーバーは直接繋がっているわけではない。』ということでした。
タイヤからは、車に搭載された特定のデバイスにRF周波数帯を通じてデータが送信され、そのデバイスが一般的なキャリアの回線を通じてデータをサーバーに送信するとのことです。
AI・機械学習モデルの品質、安全性、評価
AIや機械学習モデルの品質、安全性、評価方法についても、参加者から質問が寄せられました。
タイヤ製造という高度に専門的な業界でAIや機械学習がどのように利用され、それらがどの程度の品質や安全性を保証しているのか、そしてその評価方法はどのようになっているのか?。
ブリヂストンは回答として、『タイヤの品質保証(QA)をそのままAIや機械学習に適用することは難しい』と説明しました。
理由としては、アジャイルな開発が進められないからです。
それでも、品質や安全性は最重要課題であり、ビジネス領域のメンバーと協力し、適切な評価方法を考えることに努めています。
また、AIや機械学習のアルゴリズムは時間と共に精度が落ちるため、定期的にブラッシュアップしているとのことでした。
まとめ
この記事を通じて、ブリヂストンがデータ分析によって業務効率化や新たなビジネスチャンスの開拓にどのように取り組んでいるかが明らかになりました。
航空会社の整備業務効率化やロードサービスの待ち時間最適化、デジタルプラットフォーム基盤の構築、そして社内教育体制の整備と、様々な取り組みを通じて、ブリヂストンは新しい時代の要請に応えるべくDXを加速しています。
データ分析の活用により、ブリヂストンはさらなる事業の成長を目指し、一方で社会貢献も果たしています。
ブリヂストンの取り組みは、他の企業にとっても、デジタル化とデータ分析の可能性を探求するための貴重なケーススタディとなり得ます。