ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)は、建築・エンジニアリング・建設(AEC)業界におけるデジタル変革の一部を担っています。
今回は日建設計、一流の建築設計事務所の、大規模総合病院の設計におけるBIM連携の取り組みについて解説します。
BIMの利用により、設計プロセスが進化し、それぞれの部門間の情報共有が向上し、問題の早期発見や手戻りの防止が可能となっています。
“BIM連携の力: 大規模総合病院設計の挑戦”
総合病院設計におけるBIMの重要性
総合病院の設計は、多様な専門知識と機能を統合し、最高の医療サービスを提供するための空間を生み出すために必要な、非常に複雑で精緻なプロセスです。
建築設計の情報モデリング (BIM) は、このプロセスを効率化し、最終的な成果物の品質を向上させる強力なツールとなり得ます。
BIMは3Dのビジュアル表現を介してプロジェクト情報を管理し、設計、構築、そして管理の各フェーズで使用可能です。
BIMは設計プロセスを強化し、建築家がモデル内でより多くの作業を行うことを可能にします。
これにより、設計決定が建築物の性能に及ぼす影響を評価する機会が増え、より確実に設計意図を達成することが可能になります。
Dynamoを利用した情報連携
大規模なプロジェクト、特に総合病院のような複雑な設計では、BIMだけでは不十分で、追加のツールが必要になります。
これが、AutodeskのDynamoの出番です。Dynamoは、設計と建築の専門家が、パラメトリック設計を採用し、自動化や最適化を追求することを可能にするツールです。
Dynamoを利用すると、BIMと一体化して動作し、設計プロセス全体を通じてデータの連携と情報の管理を容易にします。これにより、設計者は効率的に作業を進めることができ、設計の変更や調整が瞬時に行われます。
リンクされたBIMモデルと早期問題発見
BIMとDynamoを活用する最大の利点の一つは、設計の早期段階で問題を発見し、大規模な修正や手戻りを避ける能力です。
日建設計では、BIMモデルをリンクし、意匠、構造、設備の各部門が一元化された情報にアクセスできる環境を構築しています。
このアプローチにより、納まり検討の段階で早期にクリティカルなポイントを発見し、事前に問題を解決することが可能になります。
これにより、作業が進行してしまった後の問題の発生を防ぎ、結果として大規模な手戻りを避けることができます。
“情報不一致の解消: 意匠と設備の一体化”
意匠モデルと設備モデルの融合
日建設計は、意匠モデルと設備モデルを一体化し、より統合的な設計アプローチを実現しています。
意匠モデルは、外観や内装のデザインを考慮した建物のビジュアル表現を提供します。
一方、設備モデルは、建物の機能面、特に空調、換気、電気などの設備に関する詳細を表現します。これら二つのモデルを一体化することで、全体の設計プロセスがスムーズになり、各部門間の情報共有がより効率的になります。
意匠部門と設備部門の情報共有
意匠部門と設備部門が協力するためには、情報共有が不可欠です。日建設計では、各部門が必要とする情報を明確に理解し、適切な形式で提供することを求めています。
初めてこの要求が出されたとき、意匠部門からは「なぜ我々がそれをやらなければならないのか」という疑問の声が上がりました。
しかし、浅川氏はそのメリットを丁寧に説明し、協力を得ることができました。
躯体負荷計算の自動化とその成果
意匠モデルを基にした躯体負荷計算の自動化も実現しています。
これにより、従来数週間から1カ月かかっていた負荷計算が数日で完了するようになりました。
ただし、意匠モデルとの調整には時間がかかるため、全体の作業時間はそれほど変わらないかもしれません。
しかし、これは大きな進歩であり、今後の設計作業の効率化につながる重要なステップと言えるでしょう。
“手戻り回避と効率化: クリティカルな箇所の早期発見と自動化による負荷計算”
クリティカルなポイントの早期発見の重要性
設計プロセスにおける重要な要素の一つは、クリティカルなポイントの早期発見です。これは設計の問題や制約を早期に発見し、それに対応することで、プロジェクト全体のコストを抑制し、スケジュールを確実にするためです。日建設計では、BIMとDynamoの組み合わせを利用して、各部門のBIMモデルを連携し、この早期発見を実現しています。
設計の進行と問題発見のタイミング
設計が進むにつれて問題が頻発することは設計プロセスの一般的な課題であり、これを回避することは設計の質を向上させるために重要です。
日建設計では、連携したBIMモデルを通じて早期に問題を発見し、作業が進んでからの手戻りを回避しています。
これは時間とコストを節約するだけでなく、設計の精度を向上させる効果もあります。
効率化による手戻りの防止
設計プロセスの効率化は、プロジェクト全体の成功に大きく貢献します。
日建設計では、自動化による躯体負荷計算の効率化を実現し、それが結果的に手戻りの防止につながっています。
これは、設計プロセスを進行させながら問題を発見し、早期に修正することで、後から大きな修正をする必要がなくなるからです。
このアプローチは、設計チームがより具体的なタスクに集中できる時間を増やすという追加の利点も提供します。
“BIM連携の課題と解決: デジタルリレーの進化”
BIM連携の失敗と学び
技術の進歩は試行錯誤を伴うことが多く、BIM連携も例外ではありません。
成功に至るまでには多くの失敗がありますが、それらの失敗は重要な学びの機会を提供します。
日建設計では、それぞれの失敗から学び、連携のプロセスを改善することで、結果的にBIM連携の成功を達成しています。
デジタルリレーに残るアナログ作業の課題
BIM連携が進化を遂げている一方で、未だにアナログ作業が残る部分もあります。
これはBIMモデルの変更に伴う設備情報の対応などが、設計者の判断による手動作業となっているためです。
これらのアナログ作業はデジタルリレーのボトルネックとなり、全体の効率化を妨げる要因となります。
ソフトメーカーへの期待と未来への視点
これらの課題を解決するためには、ソフトウェアメーカーの支援が必要となります。
ソフトウェアの進化により、アナログ作業のデジタル化や効率化が可能となり、デジタルリレーの更なる進化が期待されます。
これにより、BIM連携の未来は更に明るく、楽しみなものとなるでしょう。
そのため、ソフトウェアメーカーへの期待は大きく、その視点は明確に未来へと向けられています。
“未来を見据えて: BIMの将来と日建設計の期待”
BIMのデジタルリレーの進展と施工からファシリティマネジメントまでの連携
BIMのデジタルリレーは設計のフェーズだけで終わらない。
施工に至っても、そして完成後においてもファシリティマネジメントなどで利用される。
この連携の強化により、一貫した情報共有が可能となり、全体の効率化と質の向上が図られる。
ソフトウェアメーカーとの関係性
BIMの進化と発展は、ソフトウェアメーカーとの連携によって大きく進む。
そのため、ソフトウェアメーカーとの良好な関係性の維持と発展は、これからのBIMの利用において重要な位置を占める。
BIMを利用する全ての関係者からの「私たちもBIをやるぞ」という声が、ソフトウェアメーカーへの要望となり、さらなる環境整備を促進する。
日建設計によるBIMの将来への展望
日建設計は、BIMの進化と発展に大きな期待を寄せている。
それは単に効率化を図るためだけではなく、設計の質を向上させ、それぞれのプロジェクトにおいて最適な解を導き出すためのツールとしてBIMを見ている。
そのため、日建設計は、BIMの将来が明るく楽しくなる時代が来ることを期待しており、そのためのステップを積極的に踏み出している。
まとめ
日建設計のBIM連携による病院設計の取り組みは、AEC業界におけるデジタル変革の一例です。
BIMの活用により、設計、施工、運用といったライフサイクル全体を通じての情報共有が可能となり、一貫した品質と効率化が達成されています。
このようなデジタルリレーの進化は、各部門の連携を深め、課題を共有し、解決策を導き出すことで推進されます。
日建設計の取り組みは、BIMの活用がもたらす可能性を具体的に示しており、明るい未来に向けての一歩となっています。