物作りの現場とITの融合が進む中、各企業は自身の事業モデルや働き方を見直す必要に迫られています。
本特集では、産業機械メーカーIHIがその一環として取り組んでいる、スマートファクトリーの実現について、同社の村野氏にインタビューしました。
IT企業とものづくり企業の境界が低くなる時代
1.1 IHIのデジタル技術への取り組みと協業の視点
IHIのデジタル変革の推進は、ITベンダーとの協業に基づいています。
しかし、これは単純なアウトソーシングではありません。
IHIは、デジタル技術を活用した製品開発とサービス提供のプロセス全体を自社で管理し、自身でアルゴリズムの開発などを担当します。
これは、IHIがデジタル技術の具体的な導入と運用について、深い理解と技術力を持つことを意味します。
ITベンダーは、クラウド基盤の構築やAI技術の提供など、特定の領域で協力しますが、基本的なアプローチと方向性はIHI自身が決定します。
これは、IHIがデジタル化の主導権を保持し、自身のビジネスモデルに最適化されたデジタル戦略を策定するための重要なステップです。
1.2 技術の理解と協業の重要性
IHIのデジタル戦略の鍵となるのは、技術の理解です。IHIは、単にITベンダーに依存するのではなく、自社で技術を理解し、適用することを重視します。
これは、技術が分からない状態でITベンダーに全てを任せると、解析手法がブラックボックス化し、最終的な製品やサービスが顧客の期待を満たすものであるか確認することが困難になるからです。
そのため、IHIは自社での技術開発とITベンダーとの協業をバランス良く進めています。
1.3 ブラックボックス化を避けるための自社開発と協業
ブラックボックス化は、デジタルトランスフォーメーションの最大の課題の一つです。
この問題を解決するために、IHIは、自社開発とITベンダーとの協業を適切に組み合わせています。
分析部分は自社でアルゴリズムを開発し、理解すること。
2.1 ビジネスモデルのオープン化についてのIHIの考え
IHIは、自社のプラットフォームを外部にオープンにすることは考えていません。
これは、他社に自社のプラットフォームを提供し、他社のビジネスに貢献するという形態のビジネスモデル転換を意味します。
しかし、IHIのビジネスモデルは、自社製品とその周辺ビジネスの価値向上に焦点を当てています。
そのため、自社のプラットフォームを他社に提供する形態のビジネスモデルは、現在のところ採用していません。
ビジネスモデルの転換に向けた取り組み
2.2 自社製品の付加価値提供を中心にした戦略
IHIの主な戦略は、自社製品とその周辺ビジネスに付加価値を提供することに重点を置いています。
これは、自社製品をただ製造・販売するだけでなく、製品を利用する顧客が抱える問題を解決し、その結果顧客からの信頼と満足度を得ることを目指しています。
具体的には、自社製品の操作性や機能性を高めること、製品のライフサイクル全体でのコスト削減を支援すること、製品の利用によって得られるデータを活用した新たな価値提供などが考えられます。
2.3 外部との協業によるビジネスモデル転換への対応
ビジネスモデルの転換は、単独の企業だけで対応することは難しい問題です。そのため、IHIは外部との協業を通じて、ビジネスモデルの転換に対応しています。
例えば、IHIが開発したプラットフォームを、他の製造業者の製造現場で利用可能にすることで、製造業全体の効率化や生産性向上に貢献することが可能です。このような取り組みを通じて、IHIは自社だけでなく、製造業全体のデジタル変革を推進しています。
スマートファクトリーへの道のり
3.1 製造プロセスの見える化による改善とリードタイム短縮
IHIは、工場内の人、モノ、機械の位置や状態を見える化することで、製造プロセスの改善とリードタイムの短縮を目指しています。
見える化により、製造現場の状況をリアルタイムで把握し、問題が発生した際の対応を速やかに行うことが可能となります。
また、全体の工程を可視化することで、無駄な工程を削減し、生産効率の向上に寄与します。
この取り組みは、物流や生産管理だけでなく、メンテナンスや品質管理など、製造全体の業務プロセスを対象としています。
見える化により、それぞれの業務がどのように連携し、製品がどのように製造されているかを把握することで、全体最適の観点から改善策を検討し、実行することが可能となります。
3.2 工場全体の最適化を目指すスマートファクトリー
スマートファクトリーとは、ICT(情報通信技術)を活用して工場全体を最適化する取り組みのことを指します。
IHIでは、自社の工場だけでなく、お客さまの工場に対してもスマート化の提案を行っています。
自社のプラットフォームを活用して、工場全体の見える化や改善を行うことで、製造現場の効率化や品質向上を実現します。
これらの取り組みは、単に製造効率を向上させるだけでなく、製造現場の働き方改革や人材育成にも寄与します。
労働力不足や技術者の高齢化といった課題に対し、ICTを活用した新たな解決策を提供します。
3.3 お客様からの要望への対応とスマート化への取り組み
IHIは、お客様からの要望に対応する形でスマート化への取り組みを進めています。
お客さまから「IHIの改善能力や生産技術を我が社でも活用したい」という声に応え、自社のプラットフォームをお客さまの製造現場に導入し、改善や効率化の実現を支援します。
これらの取り組みは、自社の技術力を活用してお客さまの課題解決に貢献することを目指しています。
製造業のデジタル変革に向けて、IHIはスマートファクトリーの実現に向けて積極的に取り組んでいます。
工場全体の見える化を求める顧客ニーズ
4.1 顧客の製造現場改善への要望と対応
IHIは、お客様からの具体的な要望に応える形でスマート化の取り組みを進めています。
「IHIの改善能力を我が社でも活用したい」という声に応えるべく、自社のプラットフォームを活用して、製造現場の見える化やその先の改善を行っています。
また、自社の機械がお客様の工場にあることを前提とした改善提案を行っており、これにより具体的な生産現場の問題解決に寄与しています。
その取り組みの一環として、顧客が自社の工場で直面している問題や課題を深く理解し、それぞれの状況に応じた最適な解決策を提案することに重点を置いています。
具体的な課題解決に向けた協力体制の構築を通じて、製造業のデジタル化とスマート化に寄与しています。
4.2 工場全体の見える化に対する顧客の期待
近年、多くの製造業者から「工場全体の見える化」に対するニーズが高まっています。
これは、現場の状況を正確に把握し、より具体的で効果的な改善策を立案・実行するための重要なステップです。
IHIのお客さまもまた、単に機械の稼働状況を見える化するだけではなく、工場全体の見える化を望んでいます。
このようなお客さまの期待に応えるために、IHIでは自社の高度なデジタル技術と製造業で培った深い知識を活用し、工場全体の見える化を実現しています。
これにより、お客様が抱える具体的な課題に対して、効果的な解決策を提案し、その実行を支援しています。
4.3 共創を通じた改善策の探求と実践
IHIは、お客様との共創を通じて、具体的な改善策を探求し、その実践に取り組んでいます。
「IHIの機械の稼働状況が見える化するだけでは、我々の利益にはつながらない。
どうせやるなら、工場全体の見える化をお願いしたい」というお客さまの声に応え、一緒に取り組みながら改善を進めています。
そのために、IHIでは技術の共有や知識の共創を通じて、お客様とともに工場の問題解決に取り組む体制を整えています。
お客様とともに改善に取り組むことで、より具体的で実行可能な改善策を立案・実行することができ、これにより、製造業のデジタル化とスマート化の実現に貢献しています。
他社とのパートナーシップによる課題解決
5.1 IHIだけで完結できない部分への対応
スマートファクトリーの実現には多岐にわたる専門知識が必要であり、IHIだけで全てを実現することは困難です。
この課題を克服するために、IHIは他社との協業を積極的に進めています。
例えば、自社の専門領域外である情報技術やデータ分析に関する知識を補完するためにIT企業との協業を行っています。
他社との協業により、IHIは自社の強みであるハードウェアの知識と他社のソフトウェアの知識を組み合わせ、スマートファクトリーの実現を加速しています。
これにより、IHIは製造業におけるデジタル化とスマート化の推進において大きな成果を上げています。
5.2 他社との連携によるスマートファクトリーの実現
IHIが他社と協力することでスマートファクトリーの実現を加速しています。
例えば、IHIが自社で開発したプラットフォームを他社のソフトウェアと組み合わせることで、工場全体の見える化や最適化を実現しています。
また、IT企業との協業を通じて、製造業に特化したAIや機械学習の導入に成功しています。
他社との連携によるスマートファクトリーの実現は、単に技術的な課題解決だけでなく、新たなビジネスモデルの創出にもつながっています。
このような取り組みを通じて、IHIは製造業の未来形を創造しています。
5.3 協力関係を通じた新たな価値創造
他社との協業は、技術的な課題解決だけでなく、新たな価値創造にもつながります。
IHIは他社との協業を通じて、自社の製品だけではなく、製造プロセス全体を改善することで、お客様にとっての新たな価値を創造しています。
例えば、工場全体の効率化や生産性向上、製品の品質向上などが可能になります。
これらの取り組みにより、IHIは自社だけでなく、お客様や社会全体に対しても新たな価値を提供しています。
IHIは、自社の知識と他社の知識を組み合わせることで、より良い製造業の未来を創造することに積極的に取り組んでいます。
まとめ
物作り企業とITの境界が徐々に低くなる中で、IHIは自社の強みとIT企業との協業を通じて、スマートファクトリーの実現を目指しています。
これにより製造プロセスの改善、リードタイム短縮、最適なライン配置などが可能になると考えています。
そして、それらを通じて付加価値を提供し、顧客の期待に応えるとともに新たな価値創造を行っていくことを目指しています。
物作りとITの融合が進む現代において、IHIの挑戦はその先を見据えた重要な一歩といえるでしょう。