IoTやAIなどの急速な進歩や、新型コロナウイルスの感染拡大などを要因として、近年スマートビルディングが注目を集めています。
本記事では、2022年におけるスマートビルディングの現状と題し、市場規模・現状課題・注目されている関連システム・最新事例について解説していきます。
今後の動向から目が離せない当技術。ぜひ本記事を通して最新の知識を仕入れてください。
スマートビルディングとは
スマートビルディングとは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAIといった最新技術を備えたオフィスや商業施設などのビル、またはそれらの管理手法のことです。
様々な設備をインターネットに接続し、照明や空調、入退室などを自動かつ効果的に管理・制御することが可能となります。
また、ビルの利用者の行動データや空調データなどを収集し、リアルタイムで可視化・分析できます。
近年では、市内各所に設置されたカメラ・センサー・スマートフォンなどのデバイスを通して、設備稼働や消費者行動、環境のデータを収集・分析する「スマートシティ」の一部を担う形で、世界中でスマートビルディングの建設が進んでいます。
スマートビルディングの市場規模は、今後拡大し続けると予測されています。
世界市場規模では、2020年の662億米ドルから2021年には726億米ドルへと、約10%成長。
今後もこの成長率は維持し続け、2025年には1,089億米ドル、2028年には1417億米ドルに達する見込みです。
この潮流に乗るためには、日本をはじめ、各国が今以上に業界標準認識のアップデートや法整備を進める必要があるでしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大でさらに注目を集めている
また2020年以降、世界中で感染拡大した新型コロナウイルスもスマートビルディング浸透の大きな要因となっています。
新型コロナウイルスは、短期間で世界中の市場や消費者の動き、共通認識を変えてしまいました。
拡大当初は行動制限や営業停止などの措置により感染予防策をとりましたが、今後はそれらも緩和されていくでしょう。
つまり、新型コロナウイルスと共に生活をしながら、より効率的かつ感染予防対策がとられるシステムが求められていきます。
この流れの中で、なるべく人為的な作業が減り、かつ精度の高いデータを収集できるスマートビルディングの需要が高まるのは至極当然のことといえます。
スマートビルディングの現状課題
次に、スマートビルディングが抱えている課題について解説します。
高額な初期投資が必要
高額な初期投資は、スマートビルディングを浸透させるうえで大きな足かせです。
スマートビルディング化することで人為的な作業は大きく削減できるため、人件費や生産性向上による工数削減に繋がることが見込めます。
長期的に見ると、多額のコストカットが期待できるでしょう。
一方で、各設備を構築するために高額な初期投資が必要となります。
スマートビルディング化に欠かせない「BEMS」を導入するだけで百万円以上の初期投資です。
それ以外にも、各種設備へのセンサー設置、システムの整備、新規デバイスの導入などで、数百万円~数千万円規模の費用が発生します。
この莫大な費用を回収するためには、数年から数十年という長期的な目線が必要となるため、導入に至らないケースは少なくありません。
量産体制の構築や新しい代替技術の開発による初期費用削減は、今以上にスマートビルディングを浸透させるうえで必要不可欠な要素といえます。
現時点ではまだ知名度が低い
スマートビルディングと類似する用語があります。「スマートハウス」と「スマートホーム」です。
<スマートハウス>
スマートハウスとは、ICTを活用して”一般家庭”の設備機器(冷暖房や照明など)を制御し、消費エネルギーを抑制・最適化する住宅を指します。
主に太陽光発電や家庭用蓄電池、HEMS (home energy management system)というシステムを活用して設備の自動化や消費エネルギーの見える化を図り、家庭内のエネルギーの無駄を無くすことが目的です。
近年では、Googleのアプリに「スマートHEMSサービス」というものが出てきました。このアプリでは下記のようなことが可能です。
- 宅内・宅外から自宅の機器の状態確認と遠隔操作
- 外出先からエアコン・照明などの消し忘れ確認
- 家電製品をつけっぱなしの場合そのままOFFに
また、電気の使い過ぎをプッシュ通知で知らせてくれ、節電意識を高めることができます。
<スマートホーム>
スマートホームとは、主にIoTを活用して”一般家庭”の家電を制御し、自動化や最適化により利便性・安全性を図る住宅のことです。
外出先からでも家電を操作できる「スマートリモコン」や、音声で家電を操作できる「スマートスピーカー」などは有名です。
このスマートハウスとスマートホームは、近年CMなどメディアの露出が増え、一般消費者の中ではよく耳にする名称となりました。
一方で、スマートビルディングは一般家庭向けではないため、メディアでの露出は多くありません。
そのため、スマートハウス・スマートホームとスマートビルディングの知名度には大きな差が生じました。
知名度と浸透度合いは比例します。
まだまだ知名度が低いと言わざるを得ないスマートビルディングは、現状課題としては大きな要素です。
システム供給者は、早急な知名度獲得施策が求められるでしょう。
トラブル時の対策が不完全
災害などのトラブル懸念もまた、スマートビルディングが抱える大きな課題です。
各種設備と繋がったインターネットは、一元管理されます。
この中央制御装置に何らかのトラブルが発生した場合、ビル全体の挙動に甚大な影響を及ぼしてしまいます。
ハッキングなどのサーバー攻撃、地震や台風といった災害などは、中央制御装置にとって大きな脅威です。
ある程度の対策はしているとはいえ、まだ完全ではありません。
何ものにもリスクはつきものですが、スマートビルディングのような大規模なシステムによる影響は大きいです。
何が合っても稼働が停止しないシステムの開発が急がれます。
近年のスマートビルディングの注目システム
スマートビルディングには続々と新しい理論やシステムが追加されています。
ここでは近年注目されている3つのシステムを紹介します。
ビルディングアナリティクス
ビルディングアナリティクスとは、ネットワークセンサー、ビル管理システム(BMS)、IoTのエッジデバイスなどのスマートビルディングテクノロジーから収集されたデータを分析し、有効活用する考え方を意味します。
例えば、収集した莫大なデータ(ビッグデータ)を解析して、エネルギーの最適化、ひいてはシステム寿命の長期化やエネルギーコストの削減に繋げることが可能です。
また、より良いシステムの開発や、現状課題の解決にも活用できるでしょう。
スマートビルディングの本質は自動化とデータ収集であり、後者は今後の発展には欠かせません。
実際、ビルディングアナリティクスの市場規模は拡大しており、インドの調査会社
Infinium Global Researchによると、2021年に7億7,680万米ドルで、2027年には1億7,360万米ドルに達すると予測されています。
<ビルディングアナリティクスでできること>
- 施設のパフォーマンスの評価、比較
- 消費費用を正確に予測して予算を立てる
- パラメータを相関させて、イベントやインシデントを調査および説明します
- 予期しない機器の故障を回避するために予知保全を実行する
ビルディングオートメーションシステム
ビルディングオートメーションシステムとは、スマートビルディング内に設置されたシステムをより簡単に監視・制御し、環境最適化や安全性の向上、ランニングコストの削減を可能とする方法のことです。
具体的には、照明や空調、防犯セキュリティなどの設備機器をネットワーク経由で一元管理します。
これらにより、人為的な作業から自動化・安定化に繋げることが可能です。
顔認証システム
顔認証システムは、セキュリティレベルが高い、非接触で衛生面に優れている、パスワードの漏洩リスクが少ない、などといったメリットからスマートビルディングの中核を担う存在となりつつあります。
特に新型コロナウイルス禍においては、非接触はニーズが高く急速に浸透しています。
※顔認証システムについての詳細は、『今注目を集めるスマートビルディングの顔認証システムを解説』でも解説しています。
合わせてご覧ください。
スマートビルディングの最新事例
最後に、スマートビルディングの最新事例を紹介します。
※具体的な建物名は伏せさせていただいております。
オフィスビルS
オフィスビルSは、スマートビルディングの先駆けとして知られています。
トイレやテラスなど共用部の混雑状況、従業員の位置情報などをパソコンやスマートフォンにインストールしたアプリから確認できます。
また、エントランス内照明に「サーカディアン照明」を採用し、太陽などの自然光に合わせて照明の色温度を変化させ、人間本来の生体リズムに合わせた照明を生み出します。
これらの仕組みは全て生産性の向上を軸としており、当ビルで働く者の快適さを追求したスマートビルディングです。
オフィスビルT
オフィスビルTは、建物内に1000台以上のカメラやセンサーを設置し、混雑状況や温度・湿度など様々なデータを即時分析・活用できます。
また、全館5Gに接続でき、インターネットにスムーズにアクセス可能です。
今後も注目を集めるスマートビルディングの動向をチェックしよう
課題を抱えながらも、時代に流れに沿ってその存在が徐々に認知されつつあるスマートビルディング。
新型コロナウイルス禍においては、よりその存在が強まることでしょう。
今後もスマートビルディングの動向から目が離せません。